Garden birds

tatsuamano2009-02-12

ダーウィンの誕生日は雪となりました。テレビでは「進化論vs創造論」の討論が行われ、それぞれの立場の人がひたすら引かずに正論と信念をぶつけ合う中、元カンタベリー大司教という何とも難しい立場の人が最も大人な(そして日本人かのような)意見を述べていて、感心させられました。
「聖書は確かに偉大な書物だ。だが私は小さいころから神が人を創造したとは信じてはいなかった(断言…)。」
「サー」ロバート・メイの記念講演にも行ってみました。貧困や戦争などの問題が起こっている地域と環境問題が起こっている地域を重ねてみせ、先進国と発展途上国の協力は如何にして成り立つのかを問いかける姿に感銘を受けました。
話は変わりまして、先週末には受け入れ教官であるビルの自宅へ、研究室のみんなでお呼ばれして行ってきました。
彼はケンブリッジから車で1時間弱の「田舎」、本当のfarmlandまっただ中に家族で住んでいます。周辺ではアカシカやキツネも見ることができました。夏には家の裏の放牧地でイシチドリが繁殖するそうです。
そんなビルの家で最も印象的だったのは、数々の鳥グッズコレクションでも、自作の絵画でもなく、庭に設置された”bird feeder”でした。市販のfeederに何かの種子が詰まっていて、それを目当てにベニヒワやらゴシキヒワやらがひっきりなしにやってきていました。時には小鳥を目当てにハイタカもやってくるそうです。
日本では特に去年、今年あたりから「鳥への餌やり自粛」という動きが主流になってきていると思います。もちろんメインとなるのは主要な湿地へやってくるハクチョウやカモ類でしょう。トキへの給餌に関する議論も記憶に新しいところです。
こちらでは本当に多くの人から”bird feeder”を設置しているという話を聞きます。「うちにはこんなのが来る」という自慢話から、「小さい頃にあの鳥を庭で見て憧れたんだ」といった思い出話まで、いろいろです。ちょっと調べてみると、少なからず研究も行われていることが分かりました。
まず基本的な情報としては、イングランドウェールズだけでも家庭の「庭」が占める面積は50万ヘクタールにも及び、その面積は国や地域、RSPBなどによるリザーブの総面積のほぼ2倍にも相当するそうです(Cannon et al. 2005)。イギリス全体の約60%の家庭では庭で鳥に給餌した経験があり、その給餌量は1年で6万トンにも及びます(Fuller et al. 2008)。ちなみに、シェフィールドにある「庭」だけで、2万5千個の池(!)、35万本の木、4万5千個の巣箱が存在すると推定されています(Gaston et al. 2005)。
これだけの規模の給餌が鳥類群集に影響を及ぼさないはずはありません。「庭」スケールで見ても、多くの種は給餌のされている庭の方が出現確率の高いこと(Chamberlain et al. 2004)、また景観スケールでも、給餌する人の密度が高い地域ほど観察される鳥類の個体数は増える(種数は増えない)ということが報告されています(Fuller et al. 2008)。給餌そのものが鳥類に与え得る悪影響としては、不規則な餌資源への依存化、食物の質低下(Brittingham and Temple 1992)や外来種の増加(Daniels and Kirkpatrick 2006)などが指摘されていますが、まだあまり研究が進んでいないというのが現状のようです。
むしろgarden birdに関する研究を見ていると、イギリスでは「庭」を一部の保全対象環境として捉えている印象を受けます。例えば、Garden Bird Watchというプログラムでは、イギリス全土1万6千以上の「庭」で観察された鳥類の有無がボランティアによって記録されています。そこから得られる個体数変化の傾向は、Breeding Bird SurveyやCommon Bird Censusなど一般のモニタリング調査から得られる傾向と、多くの種で正の相関を示しているそうです(Cannon et al. 2005, Chamberlain et al. 2005)。ただし興味深いことに、スズメ、オオジュリン、キアオジといった農地性鳥類は、近年一般のモニタリング調査では減少している一方、庭に出現する確率は高くなってきているそうで、越冬期の自然条件下での食物不足がbird feederの利用を促進している可能性が指摘されています(Chamberlain et al. 2005)。
給餌があまり問題視されず広く行われている理由としては、もう既に国民の間で文化的に広がっている行為だからという点が大きいのかもしれません。少し深読みすれば、小さいころに庭にやってくる小鳥に親しむことで、これだけ鳥や自然が好きな国民を生み出し、それが結果的に生物多様性保全につながるのならば、プラスの面があることもまた事実でしょう。一方で、庭で種子を与えるbird feederには、日本の河川や湖沼で見られる餌やりのように自然環境へ直接負荷をかけることにはならない、という意識があるのかもしれません。当然、ネイチャーリザーブなどで給餌されているという話は聞いたことがありません。
いずれにしても、この問題はなかなか一筋縄ではいかないものだと実感しました。結局ビルの家では次から次へとやってくる鳥に圧倒されてしまい、給餌に対する考えは聞きそびれてしまいました。また機会を見て、いろんな人に考えを聞いてみたいと思っています。

Brittingham and Temple 1992. Journal of Field Ornithology 63: 190-194.
Cannon et al. 2005. Journal of Applied Ecology 42: 659-671.
Chamberlain et al. 2004. Ecography 27: 589-600.
Chamberlain et al. 2005. Ibis 147: 563-575.
Daniels and Kirkpatrick. 2006. Biological Conservation 133: 326-335.
Fuller et al. 2008. Diversity and Distributions 14: 131-137.
Gaston et al. 2005. Biodiversity and Conservation 14: 3327-3349.