保全施策がとるべき空間スケールとは?

世界中で様々な保全施策が行われていますが、その多くは施策の効果が異なる場所でも同じである、という暗黙の前提に基づいています。
その例として挙げられるのが、ヨーロッパで行われている「農業環境施策(agri-environment scheme: AES)」です(関連研究の論文紹介をしましたので、興味のある方はこちらも)。施策のデザインは全国、さらには国間レベルで行われるのにも関わらず、それが基づく根拠は小さな空間スケール、時には数箇所での研究に依っているのが現状です。多くの研究で、AESは「効果がない」、「効果が小さい」、「効果が限定的」と考察されている事実もあります。
そこで
Whittingham et al 2007 Should conservation strategies consider spatial generality? Farmland birds show regional not national patterns of habitat association. Ecology Letters, 10: 25-35.
では、農地に生息する鳥の分布データを用い、鳥類の生息−環境要因の関係がどの程度一般性を持つのか、「個体密度」、「農地タイプ」、「地理的位置」といった階層ごとにロジスティックモデルの当てはまり程度、各環境要因の影響力、各環境要因の影響力の順位、を比較することで検証しています。
その結果、個体密度や農地タイプが異なっても、モデルの当てはまりや各環境要因が鳥類の出現に与える影響には大きな違いがなかった一方で、地域が異なると、これら「鳥類の生息−環境要因関係」はかなり異なるということが分かりました。
つまり、ある場所のデータを用いて推定した「鳥類の生息−環境要素関係」は、異なる個体密度や農地タイプの場所でも比較的当てはまるのに対し、地域が大きく異なると全く当てはまらない、ということが言えます。
筆者らはこの「地域間での一般性のなさ」をAESが軽視しているという問題点を指摘し、一方で「地域性」に注目した研究-保全施策の成功例なども紹介しています。
種の分布がどのようにして決定されているか、は生態学の中心的なテーマですし、一般則も生態学が追求して止まない目標(それとも蜃気楼?)なのだと思いますが、保全管理の分野では想像以上に軽視されているのかな、と思いました。この視点は今後も自分にとって重要なものとなるのではないかと思います。