気晴らし論文紹介

学会準備が立て込み、気晴らしに。。

Lindenmayer et al. 2007. The complementarity of single-species and ecosystem-oriented research in conservation research. Oikos 116:1220-1226.
"single-species research"と"ecosystem-oriented research"をどうやって使い分けていくか、というのは自分の中でも常にもやもやとした問題なので期待して読み始めたのですが、結局のところsingle-は現象の因果関係を知るため重要、ecosystem-はより大スケール・多種を含めたパターン把握には欠かせない、つまり両方大事、という自分でも至っていた結論。。。両アプローチの"complementarity"を示す事例として、オーストラリア森林の有袋類アメリカ森林のキツツキ、両生類の全世界的な現象、などが示されていますが、この論文を読む限りではどれだけ両アプローチが不可欠だったのかよくわからず。各事例をもうちょっと勉強してみようかなと思いました。それぞれのアプローチの長所・短所が挙げられているのは少し理解を助けるかも。いずれにしても自分はやはりどちらのアプローチもできる研究者を目指していきたいと思っています。

Caro 2007. Behavior and conservation: a bridge too far? TREE 22:394-400.
約10年前に始まった行動学の保全生物学への応用という試みが、結局のところどれだけ保全への貢献につながっているのか再評価している論文。初めは画期的と捉えられたこのアプローチがそれほど勢いに乗らないのはなぜでしょう?と。結論としては、個体群生態学や遺伝学と対照的に、行動生態学の理論は保全上の問題を解決するためにほとんど貢献できておらず、大方の保全問題で注目されている「行動」とは個別の「記載的な」観点に過ぎない、というもの。サイガアンテロープの性比が狩猟によって偏ると繁殖しないメスが増えるとか、プレーリードッグを再導入するには家族群で導入した方が捕食率が低く定着率が高い、など。
一部納得する反面、事例がかなり哺乳類に偏っている筆者の主張には納得できない部分も。行動生態学の理論が保全に貢献できていない、という点で言えば、例えば古典的な採食理論から環境収容力を推定するという試みは多くの研究で成功している例だと思います(van Gils & Tijsen 2007 Am Nat 169:609-620; Morris & Mukherjee 2007 Ecology 88:597-604 など)。筆者の言う「記載的な」観点も、動態の予測に取組むことができれば保全問題に大きく貢献できるのではないかとも感じました。ゲーム理論や最適化理論だけでなく、Ecological trapやBuffer mechanismといったどちらかといえば記載的な観点も、個体群動態の予測を行う際には大きな影響をもたらす行動学的要素だと思います。むしろ「保全行動学」の勢いがない原因は、single-species researchになりがちなため、労力がかかり敬遠・軽視されやすいこと、そして記載的な行動学の視点は現象のプロセスを理解する過程で当然必要となることに過ぎないので、特に行動学を応用しているとは捉えられない、ということにあるのではないかと思いました。