僕も楽しみ。

たまにはセミナーの話でも。
先日、RSPBからポール・ドナルドという人が来て話をするというので聞きに行きました。鳥類の性比についてとのことで行動生態の人と思ったのですが、農地性鳥類についていくつも重要論文を書いている研究者と気づき驚くばかり。何せ直前に修正していた論文でも引用していたもので。。
農地性鳥類の減少やその原因について論文をいくつも出している彼がなぜ鳥類の性比かと言いますと。。
最近彼が研究を行っているRaso larkという種は、たった7平方キロのRaso島に約130個体(!)のみが生息しているという絶滅危惧種ですが、成鳥の性比がかなり雄に偏っているそうです。そこを発端として、個体群内での性比偏りが保全上の問題に及ぼす影響について興味をもったということでした。
親の性比偏りについて報告している限られた数の研究をレビューしたところ、鳥類ではこれまで報告されている親の性比は有意にオスに偏っていること(哺乳類はメス)、絶滅危惧種ほど雄への偏りが強いこと、同一種・個体群でも個体数と雄割合の間には正の関係があること、などが分かったそうです。この原因として、抱卵などを行うメスへの捕食圧が高いこと(移入種に影響を受けている種は特にオスが多い)、資源競争において雄の方がしばしば優位なこと、を挙げていました。
絶滅危惧種におけるオスへの性比偏りは絶滅リスクの過小評価につながります。性比が偏れば有効集団サイズが小さくなるのはもちろんのこと、彼が研究しているヒバリ類に代表されるように、しばしば鳥類の個体数モニタリングはさえずり個体の確認によって行われます。しかしつがい形成していなオスとしたオスでは前者の方が断然さえずり頻度が高いので、
性比がオスに偏る→つがい形成できないオスが多くなる→さえずり多くなる→個体数多い!?
という矛盾に陥ってしまう極端な可能性もあるとのことでした。結論としては絶滅危惧種は個体数だけでなく性比モニタリングも重要だろうと。
絶滅危惧種の最後に残された個体は〜も○○も、みんなオス。」と断言していましたが、トキのキンさんはメスでしたね。。大型種はまた違うかもしれません。
もう一人最近印象に残ったセミナーは同じグループのベンの発表でした。
彼はガーナを調査地として、農地開発が生物多様性に与える影響について実証研究を行っています。ガーナのように多くの国では、食物供給の確保が最重要課題、でも森林から農地への開発は豊かな生物多様性の損失につながる、というトレードオフを抱えています。指導教官のグリーンの理論研究で、「農業の集約化程度−生物多様性の損失量」関係が下に凸カーブであれば、土地利用を森林と高集約化農地に二分化させる”land-sparing”が有効、上に凸カーブであれば、粗放的な”wildlife-friendly farming”を大面積で行うことが有効、ということが提唱されています。
彼のこれまでの予備結果によれば、少なくとも鳥類については”land-sparing”が有効である可能性が高いとのことでした。もちろん種によっては低集約化農地でよく出現する種もあるのですが、ほとんどの種が少しでも森林が失われることで出現しにくくなるためです。
研究自体も背景がしっかりしていて十分に面白いのですが、注目すべきは彼の研究に対する態度です。
鳥類だけでなく、昆虫や植物も対象にして総合的な評価を行っていくということだったので、今後が楽しみだねと声をかけると、
「うん!僕も楽しみだよ!」
と満面の笑みで即答されました。
いや自分だったら、かなり有望なテーマだとしてもそう即答はできないだろうなぁ…
何ともさわやかで見習いたい姿勢です。