2年

先週、ちょうど渡英して2年目を迎えました。1年目と同様、振り返ってみるとあっという間に過ぎてしまいましたが、反省点もあり、成長したと思える点もありの1年間でした。
まず研究ですが、想像以上に2年目も論文を出すことができませんでした。ちょうど1年前に同じ危機感を抱いて、それからは自分が最もやりたいと思ったいくつかの課題に集中的に取り組んできました。結果、その筆頭だった言語の絶滅リスクについては半年ほどで原稿化まで至りましたが、その後なかなか論文発表までたどり着けずにいます。インテコルの発表までに論文にできていればよかったのですが、この点は非常に残念です。2〜3年前から取り組んでいる開花フェノロジーの研究課題、今回の渡英時から取り組んでいる水鳥の絶滅リスク評価についても、いくつか障壁があり、いずれも匍匐前進状態です。
一方、渡英して最初の1年で開始した共同研究の多くが、共同研究者の手によって2年目で何とか原稿化まで至り始めています。気候変化に伴う鳥類の体サイズ変化や生物個体群の応答、西アフリカの農地管理と生物多様性、南アジアにおけるハゲワシ類の個体群回復、資源動態に対するネズミ類の個体群長期応答、アマゾンにおける森林伐採と狩猟圧の変化、ジオエンジニアリングのhorizon scan、両生類のevidence-based conservation等々。それぞれへの貢献度は様々ですが、これらの共同研究を通じて多くの研究者と議論を交わし、自分なりに貢献しながらひとつの形に仕上げていった過程は、どれも本当に刺激的で楽しい経験でした。どの課題も2年目まででは論文出版までには至りませんでしたが、これからの1年で発表された暁には是非、それぞれ詳細に紹介したいと思います。
これらを踏まえ、研究とは時間がかかるものと改めて実感しています。自分の労力だけで何とかなる部分もあれば、何ともならない部分も多く、どうしても年単位の時間がかかってしまいます。先日ふと思ったのですが、研究は大抵の農業よりも収穫まで時間がかかりますね…。そういった事実を実感できているのは研究者としてプラスだと思いますが、果たして自分の研究者キャリアでどうしていけばいいのかは未だに悩ましい部分でもあります。
またそのような悩ましさだけではなく、2年間を今の環境で過ごしてきて自分の中で少し新しい感覚も芽生えてきました。というのも、こちらでの人付き合いにおいて、最近になってようやく不必要な緊張感や壁がなくなってきたように感じています。渡英してからしばらくはどうしても言葉の壁が大きく、相手によって差こそあれどんな人と向き合うにも少なからず緊張が自分の中で残っていました。それによって自分の素の部分がうまく表現できない、相手にもうまく対応できない、結果円滑な関係性が築けず壁を感じてしまう。30半ばになって思春期の悩みのようだなと自分でも少し可笑しいのですが、言葉ができないというのはまさに幼児退行のような経験で、それが如何に大きな問題であるのかは留学経験のある方には特に同意してもらえると思います。
しかしそんな緊張感が気付いてみると今、だいぶ取り払われているように感じます。言葉を初めとして、慣習や文化、考え方などを少しずつ理解してきて、様々な人と交わしてきたコミュニケーションの積み重ねもあり、ようやく今になって、所属している研究室や学部が緊張感なく地に足ついて過ごせる環境だと自分でも胸を張って言えるような気がします。

そんな気持ちの面での変化の最大の恩恵は、自分の周囲にいる人々の研究に対する態度や生き方をより深く感じられるようになったことかもしれません。話の内容が以前よりほんの少し多く理解できる、ひとつだけ多くの質問ができる、ただそれだけなのですが、以前は見えなかったものが少しずつ見えてきているような気がします。
研究室の教授陣からポスドク、学生、サバティカルや共同研究のために滞在する研究者や、セミナーや学会の前後に滞在するビジターなど。研究キャリアや専門、国や身分も異なるそれぞれの研究者が、どのような考えとスタンスで保全科学という学問、生物多様性保全という問題に取り組んでいるのか、まさにひとりひとりの人間に反映されたひとつひとつの事例を、毎日のコミュニケーションの中で学んでいるような気がします。またそう感じられるようになったことで、様々な人の人生が行き交う交差点のような今の環境で過ごしている時間の貴重さを、改めて実感しています。
その中で、ここのところ自分が今後、中長期的に取り組みたいことを考え始めています。そんな周囲の研究者による多くの事例、また最近の自分の研究成果も踏まえて新しい方向性を決めていくことは、生みの苦しみもありながら、同時にわくわくするような作業でもあります。いい形にまとめて、また様々な機会に紹介していければと思います。
ひとまず渡英3年目、気持ちを新たにがんばろうと思っていた矢先、先日自分がグーグル・ストリートビューに写っていることに気付きました。日常の一場面を見事に切り取られています(笑)。
まぁこれも2年ほど過ごした証ということでよしとしましょう!