3月のいろいろ

3月は一時帰国などでバタバタしていたこともあり、ブログの更新ができませんでした。少し駆け足になってしまいますが、いくつか書きたかったことをまとめてみます。
まず2月末から3週間、ちょうど1年振りに一時帰国をしました。久しぶりに日本に滞在していろいろと思うことはあったのですが、今回特に実感したのは日本における食文化の多様性でした。もちろん以前から経験していることなのですが、久しぶりに訪れたスーパーでの魚種の多さには改めて驚かされました。
東京
ケンブリッジ
東京や静岡の複数のスーパーで魚種数を数えてみましたが、30種を超えているところが多々ありました。ケンブリッジのスーパーで通常見られるのは10種前後です。それぞれの国で近海に生息している魚種数がどのくらい違うのかは分かりませんが、日本がより多くの魚種を一般家庭で食の対象としていることは明らかです。これらの食多様性が日本人の福利に大きく貢献していることも間違いありません。何より、一時帰国中に東京や静岡、そして今年は広島で味わった食事や酒が、どれだけ人間を幸福な気持ちにしてくれるかは、身をもって実感することができました。
一方で、この日本の食文化が水産資源に大きな影響を及ぼしうるものであることも周知の事実です。多くの種で資源状況が注目されているマグロは今でも刺身コーナーの主役となっています。静岡のスーパーでクジラ肉が普通に売られていたのにも、小さいころからずっと見てきていたはずなのですが、改めて驚かされました。

これらの種が今後も存続していけるよう、持続可能な消費をしていく責任が当然日本人にはあると私は思います。しかしながら、欧米の保全コミュニティーにおいてはクジラ類に限らず資源状態に懸念がある種を食の対象とすること自体を疑問視する考えが少なくありません。最たる例がベジタリアンという考え方でしょう。畜産業が生態系に及ぼす影響を懸念して、食料供給の効率を上げるためにベジタリアンの普及を提唱する保全科学者は数多くいます。その中で、資源状態に問題を抱えながらも30種以上の魚を食べ続ける日本人の行動は、なかなか受け入れ難いものなのだと思います。もちろん、あいつらには分からない、と敵対することは簡単でしょう。しかし一国だけ閉鎖空間で生きているわけではない現代においては、できることならばお互いに理解しあえる関係を目指していきたいものです。
「文化」の違いと言ってしまえば簡単ですが、それだけで理解が進むとも思えません。私たちの生活にとって、クジラの肉がなくなること、マグロの刺身が食べられなくなること、そうやって食材がひとつひとつなくなっていくことが、どのような意味をもつのでしょうか?それはどれだけ大切で、どれだけ今後守っていきたいものなのでしょうか?ウナギがひっそりと姿を消していたスーパーの片隅で、そんなことをぼんやりと考えました。

滞在最後には生態学会にも前半だけ参加し、市民調査シンポジウムでの短い発表と、フェノロジー変化と分布変化の関係について口頭発表を行いました。多くの方々と久しぶりにお話でき、おおいに刺激を受けましたが、今年は何より山浦さん、杉浦さんという、それぞれ学生時代、つくば時代からお世話になっているお二方が宮地賞を受賞されたということで、他の受賞者の方々によるものも含め、受賞講演は大変楽しませていただきました。イギリスの生態学会でも若手向けの賞はありますが、受賞講演は行われず短い挨拶のみです。このように若手・中堅の研究に対する想いを聞けるというのは素晴らしい機会だなと改めて感じました。

日本からこちらに戻ってきてすぐに、研究室の同僚ホセの卒業式に招待され参加することができました。式の前には所属カレッジで招待した家族や友人と昼食を共にします。ここではカレッジ長からの挨拶もあります。食後にはコーヒーを飲む家族や友人をよそに、本人達は式のリハーサルを。

ガウンのフードは赤が博士、青が修士、白が学部でファーがついているものはどこそこの専攻、など細かく分類されています。練習が終わると、卒業式が行われるセネートハウスに向け、各カレッジの前から行進の開始です。

喜怒哀楽の詰まった数年間の想い、学問を修めた誇り、そして少しの恥じらいを胸に(想像)歩きます。

観光客が多く集まるキングスカレッジ前の目抜き通りもズンズンと歩いていきます。

セネートハウス(下)の内部では、他のカレッジからの卒業生と合流し、多くの家族や友人の見守るなか、ひとりずつ跪いて学長(?)からラテン語の言葉を受け、証書をもらって退場。一連の式次第を終えて出てきたホセは、感極まった中にも笑顔のいい表情で、見ているこちらも微笑ましい思いでした。

さて、その次の週は毎年ケンブリッジで開かれているStudent Conference on Conservation Scienceのボランティアです。今年も多くの国から学生の参加者が集まりました。日本からもここ数年で唯一ではないでしょうか、今年は北大の桜井君が参加しており、少し話すことができましたが、いい経験ができていたようでした。

コーヒーやランチ、ディナーの準備、ポスター会場の準備などを手伝いましたが、ほとんどカフェでアルバイトしているようだった去年に比べると、新しく大学のサービスを利用(去年の業者は打ち切り(笑))したことでずいぶんとスムーズな進行でした。

今年もこれらの手伝いがメインで口頭発表を聴くことはほとんどできませんでしたが、最終日には複数の参加者から直接感謝の言葉をかけてもらい、疲れも吹き飛びました。SCCSは今やオーストラリア、インド、中国、アメリカ、そして新しくハンガリーでの開催が決定しています。小規模な学生向けの学会であるからこその、様々な国からの参加者との密接なコミュニケーションを味わってみたい方には是非お勧めの学会です。
http://www.sccs-cam.org/

SCCS後には、3月一杯で海外学振の期間を終え帰国した植松君の個人的送別会を。動物学部では唯一の日本人同僚として、定期的にいろいろと話をすることができ楽しかったです。新天地でもますますのご活躍をお祈りします。
さて、ケンブリッジでは例年よりも早く迎えた春もそこそこに、新緑のまぶしい初夏の雰囲気すら漂ってきました。夏時間に変わった3月末からは、あんなに暗かった冬の雰囲気をもう思い出せないほどに明るい日々が続いています。また冬が来るまで存分に日光を楽しみたいと思います。