生物多様性にとって景観の異質性は常に「善」?

今年に入ってから最近の共同研究から共著となっている論文が立て続けに発表となりましたので、簡単に紹介していきたいと思います。
Katayama, N, Amano, T., Naoe, S., Yamakita, T., Komatsu, I., Takagawa, S., Sato, N., Ueta, M. and Miyashita, T. (in press) Landscape heterogeneity – biodiversity relationship: effect of range size. PLOS ONE.
S-9プロジェクトで片山君が中心となり、モニタリングサイト1000 森林・草原及び里地調査における日本全国の陸生鳥類データを解析した成果です。様々な環境要素が混在している景観の異質性は生物多様性にとってプラスであるとしばしば言われますが、この論文ではその一般性について検証を行っています。
歴史的に景観異質性が維持されてきたと考えられる日本では、異質性を好む種が広域種となっていることが考えられます。広域種、狭域種でそれぞれ景観異質性に対する反応を検証したところ、想定通り、広域種は異質性の高い景観で種数が多くなっていました。各種の個体数が示す反応も同様で、ウグイスやホオジロのように異質性の高い景観で個体数が最も多くなるジェネラリスト種が広域種には多く含まれていました。一方、狭域種は異質性の低い景観(開放地もしくは森林)で種数が多くなっていました。各種の個体数が示す反応も同様で、例えばジュウイチやアカショウビンのように森林景観で最も個体数が多くなる種、またはコヨシキリのように開放地景観で最も個体数が多くなる種、といったような各生息地のスペシャリスト種が狭域種の多くを占めていました。
この結果は二つの重要な視点をもたらします。ひとつは、生物多様性保全における景観異質性のとらえ方です。保全上の優先度が高いと考えられる狭域種に対しては必ずしも異質性が正に働かない可能性があり、保全対象の種特性を考慮した景観管理が重要となるでしょう。ただもちろんこの「異質性が正に効くのは広域種」という結論が未来永劫続くとは限りません。里山景観の減少に伴ってサシバの分布域が狭まっているように、今後の土地利用変化の傾向によっては、異質性に依存する多くの種が狭域種となっていく可能性も否定できません。
もうひとつ示唆されることは、景観要素と多様性(種数)の関係が、その地域の種プールによって決められているという可能性です。歴史的な植生・気候変化や近代の土地利用変化によってどのような特性を持つ種プールが形作られてきたかを理解することが、地域によって異なる景観要素−多様性の関係を理解することにつながると考えられます。
 ホオジロ