マイケル・エンジェル

英語での日常生活にもさすがにもう慣れ、渡英当初のような英語での苦労というのはなくなってきましたが、とは言ってもそこは外国語、まれに母語では考えられないような状況に陥ることがあります。つい先日もこんなことがありました。
その日は水曜日、午後5時からは週一で外部から発表者が招かれる人気の保全セミナーがあります。
そろそろセミナーの時間も近づいてきたから今日の仕事を終わらせないと、と集中して画面に向かっていた4時半頃、この週は「驚くほど予定がない」と言っていたビルが私の部屋をのぞいて、
「○×*◇、マイケル・エンジェルに会いに行くけど一緒にくる?」
と早口で聞いてきました。
5時からのセミナーに行くからと言うと、彼もセミナーに行くついでだと言います。人脈の広いビルは科学者から政治家、芸術家まで様々な分野の人と会う機会も多く、話題が共通している場合など私にも紹介してくれることがしばしばあります。今回もそんなようなことだろうと軽い気持ちでついていくことにしました。
場所はと聞けば、セミナーの行われる地理学部の近くにあるフィッツウィリアム美術館と言います。美術館で人に会うとは珍しいな…と思いながらも、ケンブリッジとはそもそも珍妙な慣習が未だに多く残っている街です。まぁそんなこともあるかとあまり疑問にも思わず別の話をしながら美術館へと向かいました。
フィッツウィリアム美術館は、多くの美術品を収蔵・展示しているかなり大きな美術館です。以前行ったこともあったのですが、改めてこんなに広かったのかと感心しながら早足で歩くビルについて行きました。
いくつかの扉を通り抜け、とある大広間にたどり着きました。ビルは、「おお、これか…」などと言いながらある銅像の前で足を止め、じっくりと鑑賞し始めました。
あれビル?銅像なんて見ている場合じゃ…。セミナーの時間も迫っているし、早くマイケルさんに会いにいかないと…。
仕方なく自分も「ほほぅ…」といった感じであごに手をあて、とりあえず眺めてみます。その銅像は筋骨隆々の男性が豹にまたがって片手を突き上げているというもの。鏡に映したかのように似たものが二体並べられています。「この二体はどこか違うところがあるんだろうか…」などと間抜けなことを考えながら近くにあった冊子をペラペラとめくってみると、その銅像を作成したとされる著名な芸術家の名前が目に飛び込んできました。


Michelangelo …? ミケ、ミケランジェロ!?


ミケランジェロ・・・
ミケル・アンジェロ・・・
マイケル・エンジェル!?
そういうことか…。
ただ言わせてもらいますと、これが本当に英語の発音だと誰が言ってもマイケル・エンジェルに聞こえるんです…。「見る」と「会う」が同じ単語だったり、突然全く知らない人と引き合わされることも日常的にあったりするなど、いろいろな布石があってのことだったわけですが、それにしても見事な勘違いで我ながら笑えました。
実はこの銅像、つい最近大学の研究チームが様々な証拠からミケランジェロによる銅像の中で唯一現存する作品であると発表したということでした。
Michelangelo bronzes discovered
そう言われてみるとダビデ像と似ていたか…?などと安易に思ってしまう自分の鑑賞眼は、もう少し養いたいところですね…。