地域密着型保全活動に研究者はどう貢献できるのか?

tatsuamano2006-12-03

2日間にわたって江戸崎で行われた「第三回全国オオヒシクイ会議」に参加し、宮島沼でのマガンの保全管理と農業被害対策について研究の紹介をしてきました。
ロシアからの研究者の発表や、稲波干拓地でのオオヒシクイのモニタリング結果、片野鴨池の取り組み、水鳥が池沼の水質に与える負荷など、やはりガンカモ類の話は僕にとって最も親しみの深いテーマのひとつで、どれも興味深く聞くことができました。
なかでもロシアの研究者の話を直接聞けたのは、貴重な経験でした。それにしても、ヒシクイもマガンも、いつも見てる個体群がほんとにあの原生ツンドラの真っ只中で繁殖してるんだな〜と何だか感慨深くなってしまいました。あそこで生まれた幼鳥が日本に来たら、そりゃあまりの都会ぶりに仰天するだろうなと、妙に納得してしまいました。彼らにとっては、繁殖地と越冬地、どちらが「地元」なんでしょうね。
地元の方々ともお話する機会が多かったのですが、やはり僕がいろんなことを勉強させてもらってきた宮島沼と同じように、いろいろな方々の長年の地道な活動が全ての地盤であると感じました。江戸崎もこれまでは苦難の道を歩んできたようですが、その地盤がしっかりとしているところですから、これからは少しずつだとしてもいい方向に進んでいくのではないでしょうか。毎年ひっそりとオオヒシクイが訪れるこの広大な干拓地の雰囲気が僕は好きです。
つくばへの帰りには、宍塚大池に立ち寄り、会の方に案内をしていただきました。こちらも里山保全を目的とした、非常に完成度の高い総合的な活動をされている印象を受けました。ここは、谷津田、放棄田、森林、水域と非常に多様な環境で、鳥を見るにも多様な種が見れて楽しそうです。
江戸崎、宍塚、どちらでも、「是非今後も関わっていってほしい」とおっしゃっていただきました。もちろん一人間として、という意味合いが強かったのだとは思いますが、やはり自分としては「研究者」として、こういった地道な保全活動にどう貢献できるのか、それを考えてしまいます。こういった保全活動では、生態学というよりは社会学や農学、政治・経済など様々な分野の組み合わせがモノを言うということは、宮島沼に関わってきた経験から少しは分かっているつもりです。ただまさに保全生物学生態学の観点からのスペシャリストの貢献というのは多くの現場で欠けており、常に求められているという印象を受けます。自分としても、将来的にはそこを目指していきたいと思っているわけです。欧米のあるリザーブでの保全管理策のうち、科学的根拠に基づいていたのは僅か数%という論文を読んだことがありますが、この分野が進んでいるイギリスですら学会でevidence-based conservationの必要性が叫ばれているわけですから。
かといって、自分がこういったフィールドに入って、すぐに「研究者」としての結果を出せるほどの自信もまだなかったりするわけで。やはりまだ答えは出せませんが、一人間として関わっていきながら、自分なりに研究者としての貢献の仕方について、考えていきたいと思っています。
長くなってしまいますが、帰り際、片野鴨池の田尻さんからお米をいただきました(!)ので宣伝を。片野鴨池ではカモ類のために冬季湛水水田をつくり、そこで収穫されたお米をブランド米として売っているそうです。僕が貴重な試みだと思ったのは、湛水水田と慣行水田で、施肥・農薬にかかった費用、収量、販売価格などを詳細に調査して、冬季湛水の利点を打ち出している点です。やはり農業と生物の関係ではこういったコスト−ベネフィット評価が欠かせないですよね。今後の継続調査が楽しみです。