保全生物学

「自分の専門分野は?」
という問いにうまく答えられないのがコンプレックスな時もありました。
今じゃどうでもいいかなと思ったりしていますが・・
生物の保全管理に自分の研究を役立てたい、というのは以前から一貫してもっている考えです。ただ、それなら何をすれば本当の貢献につながるのか、全くもって答えを出せてはいません。一方で、研究を行えば行うほど、基礎科学の分野も純粋に興味をもってやりたいと思うようになってきました。そんな悶々とした気持ちが、進むべき道を決めきれない現状につながっているのだと思います。
そんな中で、偶然いくつか考えさせられる論文を読みました。自戒の念をこめて簡単にご紹介。

  • Whitten et al 2001 Conservation Biology: a displacement behavior for academia? Cons Biol 15:1-3.

著者、世界銀行です。この30年間で確固たる学問分野となった保全生物学が、実際に世の中のために成し遂げたことについて冷静な視点から主張が行われています。今の自分にとっては耳に痛い文章が並んでいます。
"Perhaps conservation biology is merely a displacement activity for concerned biologist within the academic system."
"individual conservation biologists are actively and variously engaged in conservation efforts around the world, but just how much of this effort actually depends on detailed knowledge of the science of conservation biology?"
最後の締めくくりはこうです。
保全生物学者は、ただの(保全対象の)優先順位付けや科学的研究などから、現場での管理や政策決定に移行していかなければならない」
さすがにこの意見はそのまま呑めない方も多いと思いますが、もうちょっと保全生物学者寄りからの意見も出ています。

  • Balmford & Cowling 2006 Fusion or Failure? The future of conservation biology. Cons Biol 20:692-695.

保全生物学が"a displacement activity for academia"とは思わない(保全生物学者はしばしばインパクトの高い研究を行うことを犠牲にしながらも真面目に問題に取り組んでいる)、としながらも、この著者らの論点は、「生物学だけでは全ての答えを導けない」という点です。将来的に保全生物学者が現場での保全施策のために真の貢献を行うためには、社会科学など幅広い分野の専門家と協同していく必要があると。もちろん現場レベルではしごく当然なこととして認知されているわけですが、研究レベルでは割と真剣に取り組まれてこなかった部分ではないでしょうか。というか保全生物「学者」が無意識に逃げていた部分なのかもしれません。この論文ではさらにこの視点から、今後保全生物学がするべき挑戦についても10項目挙げられているので、是非読んでみてください。

  • Cowling et al 2004 Nature conservation requires more than a passion for species. Cons Biol 18:1674-1676.

生物保全の最大の障害は、「データの不足」ではなく、「対策が実施されないこと」だ、というのが、この論文のひとつのメッセージです。保全生物学者は種ばかりを見ているのではなく、何が保全施策の制限となっているのかを明確にしていかなければならない(多少意訳?)、と。保全生物学者は対策の立案プロセスにもっと関わっていくべきとしています。
これらの論文はどれも短いのですが、まさに今の自分のどっちつかずの態度を見透かしているかのようで、とてもずっしりときました。多様性の保全管理が生物学だけでは解決できない問題であることは、ある意味自明です。それを現場レベルで調整・解決していくプロセスが重要であることもよくわかります。ただそこに研究レベルでないと貢献できない部分があり、それこそが自分の進むべき道だというのが今の自分の考えです。今回改めて学んだいくつかの観点を踏まえて、具体的な道を決めていければと思ってみたりしています。