まだキツネにつままれていますが。。

tatsuamano2008-04-23

いまさらではありますが、先日東京ミッドタウンに見慣れた(?)彫刻があることに気づきました。僕が名前を知っている唯一の彫刻家、美唄市出身の安田侃さんの作品です。札幌駅にとどまらず六本木にまで展示されてるとは知りませんでした。ちょっぴり嬉しい出来事でした。
その美唄での長年のマガン小麦食害データを解析した論文がようやく受理されました!
Amano, T., Ushiyama, K. and Higuchi, H. (in press) Methods of predicting the risks of wheat damage by white-fronted geese. Journal of Wildlife Management.
Amano et al. (2007)では、個体ベースモデルで食害の発生程度を予測したのですが、モデルが複雑で取っ付きにくいという問題がありました。そこで現場での利用も視野に入れ、食害が起こりやすい日にち・場所を予測するためのさらに簡便な手法を開発しました。これまでの研究で、食害の原因が主要な食物である落ち籾の枯渇であるとわかっていたので、生息地内の水田面積あたりの累積滞在個体数を用いて食害が起こり始める日を効率的に予測できることが示されました。一方で、食害が起こりやすい畑は、防風林や車道から遠い場所にある、過去に食害が起こった畑の1-2km圏内、といった特徴があることも分かりました。また、防除器具の効果が5年間でほぼなくなったことも示しています。
これまでの最適採食理論やモデルを用いた研究でわかったことに基づいて、より簡便な手法を確立できたという点がウリだと思っています。
それはともかく。
昨日の勉強会で読み込んだ論文からいくつか。
Ovaskainen 2004. Habitat-specific movement parameters estimated using mark-recapture data and a diffusion model. Ecology 85: 242-257.
Ovaskainen et al. 2008. Bayesian methods for analysing movements in heterogeneous landscapes from mark-recapture data. Ecology 89: 542-554.
Ovaskainen et al. 2008. An empirical test of a diffusion model: predicting Clouded Apollo movements in a novel environment. American Naturalist 171: 610-619.
複数タイプの景観要素が混在する環境で、チョウ類の標識再捕獲データのみを用いて、分散パラメータ(含:マトリックスへの反応)や死亡率を景観要素ごとに推定してしまうという研究です。ランダムウォークをベースとして生息地エッジへの反応や死亡率を組み込んだ拡散モデルをつくり、最尤法やベイズ推定でパラメータを推定するというものです。
景観生態学では分散パラメータの推定が困難というのは常に問題になっていたのですが、自分の構築した分散モデルのパラメータ推定を標識再捕獲データだけから行えるという点で相当に有力な手法です。
それにしても未だに理屈はわかるのですが、これだけのデータからこれだけのパラメータが推定できるというのは本当に驚きです。いやはや、何ともすごいことができる時代になったものだと感じました。