成功・失敗

tatsuamano2009-04-02

申請していた科研費(若手B)がめでたく採用されました。
「全国長期モニタリングデータを生かした生物多様性動態のモデル化」
と題して、階層モデルやGAMなど複数のモデリング手法を用いて鳥類のモニタリングデータから長期動態を把握する試みで、今後数年は続けていく課題になることと思います。
3/31-4/2にはレスター大学で開かれたBritish Ornithologists' Unionの年次大会に参加してきました。
Lowland Farmland Birds III: Delivering solutions in an uncertain world
という題目に表されているように、イギリスやヨーロッパにおける農地性鳥類の保全に関する研究をテーマとした大会でした。
招待講演がほとんどで発表はできなかったのですが、学会が終わって帰る頃には、さすがにこの分野の研究を一通りレビューできたような気がするほど内容の詰まった2日半でした。基本的にセッションはひとつだけ、100〜200人くらいの参加者が常に同じ部屋、という小規模な学会でしたが、朝9時から夜更けまで分野のキーパーソンが集まって発表・議論するというスタイルは効率がいいなと感じました。
1999年の、Lowland Farmland Birds: Ecology and Conservation of lowland farmland birds
2004年の、Lowland Farmland Birds II: The Road to Recovery
といったように、この学会でのテーマは(西)ヨーロッパでの農地性鳥類に関する研究の流れをそのまま反映しています。同じLowland Farmland Birdsというテーマで3回目となった今回は、サブタイトルにあるように具体的な保全管理対策に関する研究が多く見られました。特にイギリスを始めとしてEU各国で実施されているagri-environmental scheme(農業環境保全施策)は、多額の予算が投入されてきた一方でその効果には賛否両論あり、今は効果の検証を経て内容の見直しが行われてきているようです。
例えば、イギリスのagri-environmental schemeには、ヘッジローを保全する・畦のような非耕作地帯を維持する、といった基本的な内容を農家に行ってもらう"Entry Level Stewardship"と、より具体的な保全すべき対象種や現象を設定し、それに合わせた農業を行ってもらう"Higher Level Stewardship"などがあります。ところが、前者は自主的な申請に基づいており評価制度などもないため、保全対象となる種がいない場所で施策を行っている、という無意味な投資が起こりうるそうです。今後は対象を明確として内容も特定のものに限った後者のような施策に絞っていくことが重要というのが大方の総意のようでした。
こういったプロセスは、イギリスを始めとしてEU各国で実際に施策が行われてきた過程で明らかになった失敗例です。今後農業環境施策がさらに導入されていくだろう日本では、この実例に基づいた「失敗談」を学んでさらに改善したシステムを発展させていかなくてはと強く感じました。
他にもハンガリーでは農地の放棄が問題となっていること、ドイツでは西ドイツと東ドイツでかつての農業体制が大きく異なったため、農地性鳥類の現状が大きく違っていることなど、論文を読んでいるだけではなかなかわからないことも知ることができました。
また今回も多くの優秀な研究者と出会い、話しをすることができたのは貴重な経験でした。特に、農業環境施策の研究で有名なデービッド・クラインとは、朝食でたまたま隣に座った人と話したら彼だったという驚きの出会いをし、いろいろと話を聞くことができました。彼はつい最近までEUの農業環境施策の効果検討プロジェクトを率いており、分類群・地域をまたいだスケールの大きな研究をいくつも行っているのですが、一方で実際の農家の要望を聞き入れながら、実現可能性が高く且つ効果のある農地管理法を考えていたりと、非常に地に足の着いた活動も行っているということが分かりました。EU各国の研究者とどう共同研究を行っていたかと話した後に、農家に受け入れられつつほどほどにでも効果のある対策をいかにして模索しているか説明する姿は、自分があらかじめ抱いていたイメージとは全く違い、感銘を受けました。
発表の合間には相変わらずのティータイム、夜は会場併設(!)のバーで延々立ち飲み、カンファレンス・ディナーでは大学のダイニングルームでクイーンに乾杯(笑)、と大きな学会にはないアットホームな雰囲気も楽しむことができました。
レスターからケンブリッジへの帰りの電車では、研究室でやはり農地性鳥類の研究を行っているアイラと車窓の向こうに広がる農地を見ながら、この分野で今後どんな研究ができるだろうかといろいろな話をしました。この国での農地研究事情についてまた少し理解が深まり、新たな研究にもつなげていくことができそうです。
会場