粗放的

tatsuamano2009-04-21

今滞在している研究室の博士課程の学生イネシュが、ポルトガルでヒメチョウゲンボウの研究をしているので、調査地を訪れてきました。
何と言うか…いい時期ということもあって、ちょっとした天国のようなところでした。
ヒメチョウゲンボウの研究はスペインでかなり集約的に行われていますが、この種はポルトガルにも分布しています。ポルトガル南部の街、Castro verde近郊に、LPNというNGOによって管理されている鳥類特別保護区があり、イネシュはそこに生息するヒメチョウゲンボウ個体群の保全について博士課程で取り組んでいます。

肥沃というにはほど遠く夏には40度も超えるという乾燥地帯であるにも関わらず、一帯ではコムギやエンバクを中心とした農業が営まれています。保護区内での農薬や肥料の利用は制限されている「超」粗放的管理で、面積の約40%は休耕地、環境保全型農業をすることで欧州委員会から補助金をもらって成り立っているという、かなり特異的な農業形態だと言えます。

右側(緑)がエンバク畑。左側は休耕地。雑草も入り乱れ、境目もほとんどない粗放的管理。
Field margin(右植生部分)の創出(環境保全型農業の一環)
広大な土地のところどころにはかつての農家が廃屋として残っており、建物が朽ちていく過程で形成される土壁の穴や瓦の隙間には、ヒメチョウゲンボウをはじめとして、ヨーロッパハチクイ、ニシブッポウソウ、ヤツガシラ、コキンメフクロウなどの鳥類が営巣しています。

広大な農地に残されている廃屋。シュバシコウも営巣する。

ヨーロッパハチクイとヤツガシラ
一方で、近年の建築様式の変化による営巣場所不足・造林による採食場所減少などがヒメチョウゲンボウ個体数減少のの原因となっています。このNGOでは保護区内の土地買い上げ(農家への管理法提案)や営巣タワー・壁の設置により、ヒメチョウゲンボウや、ポルトガルのほとんどの個体数が生息しているというノガン、ヒメノガンなどの保全を目指しています。

設置された営巣タワー。コンクリ製の棟に営巣用の穴が開けられている。

ノガンとヒメノガン
NGOによるこの活動は功を奏し、営巣場所提供が個体群成長へ正の影響を与えていることが分かってきているそうです。一方で、営巣場所となっている廃屋は30年程度で崩壊が始まり、またNGOも資金難に苦しむなど、まだ今後の動向には予断を許さない状態です。ただここのヒメチョウゲンボウは、繁殖成功や採食成功のパラメータが容易に計測できるというなかなか優秀な調査対象種で、今後さらなる研究が個体群の保全につながっていくことが望まれます。
巣箱内のオス成鳥
調査地一帯は延々と続く丘陵地に農地が広がり、この季節には至るところに花が咲き乱れ、また多くの鳥が観察でき、何とも素晴らしい場所でした。

特にノガンには魅了されました。ひとつの丘を越えると目の前に広がる丘の上にノガンのレックが現れたときは、映画ジュラシックパークで初めて恐竜が登場したときのような、心躍る気持ちにさせられました。

丘の上にノガンのレックが現れる

カオグロサバクヒタキとシロエリハゲワシ

イギリスで減少が有名なハタホオジロはスズメ並にたくさん
輝く太陽の下で白いポルトガルの町並みは目に眩しく、調査合間に飲むエスプレッソや魚介類の多い食事も美味しく、こんなところで調査してみたいものだと心から思いました。いずれにしても、今後ここでのヒメチョウゲンボウ保全に微力ながら少しでも貢献できればと思っています。