春の変化

tatsuamano2010-03-20

生態学会大会、全ての日程をこなしました。いつものようにいろいろな研究を見聞きして刺激をもらってきましたが、つい先ほど発表を行った保全生態学研究会のサテライトワークショップで鷲谷先生が、「これを最後に保全生態学研究会の活動を終わりとします」と宣言されていたのが特に印象的でした。僕自身はこの研究会の活動には関わってこなかったのですが、日本に保全生態学を根付かせて新しい世代に移り変わろうとしている、そんな場面に立ち会って、思わず襟を正したくなるような瞬間でした。
期間中には論文が受理されたという嬉しい知らせも届きました。
Amano T, Smithers RJ, Sparks TH & Sutherland WJ (in press) A 250-year index of first flowering dates and its response to temperature changes. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
内容は今回口頭で発表した内容そのままで、イギリス全土で集められている405植物種の開花日データから、国土・群集レベルでの開花時期変化を階層モデルで推定し、気候変動が植物群集に与える影響の指数を開発した、というものです。
期せずして日本では桜が、イギリスではヘッジローでいろいろな花が咲き始めるような時期となり、なかなか旬なタイミングとなりました。自分が主著の論文で鳥以外のものは初めてです。イギリス留学中に始めた研究としても最初の成果となりました。
そもそもは、第三著者のティム・スパークスケンブリッジセミナーをしに来たところから始まりました。彼は気候変動が生物フェノロジーに与える影響の研究の第一人者で、セミナーで様々な結果について紹介しているのを僕は後ろの方で聞いていました。発表後、そそくさと帰ろうとしていた僕を(何かひらめいたときいつもするように)興奮気味のビルが捕まえて、「ティムの持っているデータ全て使って指標をつくったらどうだろうか?」と話が始まったのです。ちょうど僕は鳥類の個体数指数推定に取り組んでいたので、それを基とした話だったのですが、恥ずかしながらそんなアイディアは自分では浮かびもしませんでした。
その後、半信半疑なティムと自信満々なビル、そしてデータを統括している生真面目なリチャードに囲まれる形で解析を続け、昨年秋にはようやく全員の満足する形の結果と論文原稿を揃えることができました。ビルの勧めで初めはNature、次にScience、PNASと憧れのルートを辿りましたが夢は夢のままとなり、4誌目のこの雑誌でようやく評価してもらえました。目標としていたコペンハーゲンCOP15前の出版は無理でしたが、COP10には間に合ってよかったです。プレスリリースも近いうちに計画しています。
一連の流れを通して、今回ほどチャンスの重要さを感じさせられたことはありませんでした。留学をしていなければこのような貴重なデータには触れる機会もなかったでしょうし、ティムがセミナーに来て、ビルがアイディアを思いついて(その後の共同研究を強引に進めて)、献身的なリチャードがデータを整理して…と、どの要素が欠けていてもこの研究は形にならなかったと思います。そして1700年代からフェノロジーデータを個人的に集めているような人が多々いるイギリス人のナチュラリストっぷりは言うまでもありません!(そんな一端を垣間見るにはこちらのページなどどうぞ)
一研究者としては、Nature、Scienceなどに投稿できたのも貴重な経験でした。次にこれらの雑誌にいつ投稿できるのかは分かりませんが、今回始めたフェノロジーデータの研究もまだまだやりたいことはたくさんあります。このコネクションを大切にして更にいい研究を目指したいものです。