EBCCカンファレンス

tatsuamano2010-03-28

スペインはカセレスという都市で行われたEuropean Bird Census Councilの国際学会、”Bird Numbers 2010: Monitoring, indicators and targets”に参加してきました。鳥類のモニタリングデータを用いた空間/時系列モデリングの話が中心という自分にとっては「ど真ん中」な学会で、内容の濃い一週間を過ごすことができました。
EBCCはヨーロッパ全体を対象として鳥類のモニタリングや研究を進めている機関で、22カ国のモニタリングデータからヨーロッパ全体での鳥類の統合個体数指数を作成したり、各種の分布を図示した鳥類アトラスを作ったりしています。RSPBのリチャード・グレゴリーがチェアを務めており、以前RSPBでセミナーをした縁で誘ってもらいました。
カセレス旧市街を望む
学会には40カ国から254人の参加者がおり、イギリスを初めとし、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、チェコ、スペイン、イタリア、ノルウェーブルガリアエストニアなど…想像以上に多くの人と話す機会があり、鳥類モニタリングの状況を聞いたり、お国柄を感じたり、とそれだけでずいぶん貴重な経験となりました。アジアからの参加者はインドを除けば自分一人で、日本からわざわざ来たということでさすがに目立ち、ある意味注目してもらったような気がします。
会場(右上の建物)
ヨーロッパでの国際学会ということもあってプレナリートークは有名どころが多く、何とも刺激的でした。初日の昼食で隣に座ったおっちゃんが「君は何をやってるんだい?」と聞くので一通り説明した後、「ところであなたは?」と聞き返したところ、「私はイアン・ニュートンといって、渡り鳥の個体群動態に関わる要因に興味があって…」と説明されてしまうという、大失態を犯したりもしましたが…温暖化によるフェノロジーの変化と鳥類個体群の関係の研究で有名なクリスチィアン・ボスとは、他のオランダ勢と一緒に夕食で話すことができました。
全体を通して特に際立っていたのは、スイスのマーク・ケリーとフランスのフレデリック・ジグエという二人でした。ケリーはここ5年ほどでアンディ・ロイルらと進めている発見率を考慮したモデリングの成果についてプレナリーで話をしていましたが、その内容は極めて説得力が高く、もうこれからの個体数データモデリングは発見率を考慮しないと受け入れられないのではないかとさえ感じられました。自分の発表はそのケリーのプレナリートークの2つ後で「発見率を考慮していない」モデリング手法について話したということもあって、何だか想像以上に緊張してしまって、まだまだ経験が足りないとがっかりしてしまいました。ジグエは学生や共同研究者の発表が中心でしたが、農業環境保全施策の効果検証やフェノロジーデータのモデリングなど自分とほとんど興味がかぶっているという印象を受けました。近いうちに彼の研究は数多くパブリッシュされてくるに違いありません。ケリー、ジグエ共に短いながらも話すことができたので、少しでも覚えてもらえるといいのですが…
発表を聴いているのか鳥を見ているのか…
研究の潮流としては、もう既に気候変動の影響についての研究が主流とさえ言えるのではないかと思います。これは2008年のイギリス生態学会でも感じましたが、今やヨーロッパではほとんどの国でモニタリングデータのモデリングによる温暖化の影響評価が行われており、個体群動態や絶滅リスクへの影響などもそろそろ研究成果が出てきています。90年代からずっと主流であった農業活動の影響についての研究はまだまだ多いものの、気候変動研究の勢いにはさすがに押され気味という感じです。多くの農地性鳥類の減少傾向は緩和されているわけではないので、このまま流行の勢いで気候変動の研究ばかりになってしまわないといいのですが…
いずれにしてもこれらの研究はモニタリングデータに基づいています。今回参加者のあったヨーロッパ諸国ではほとんどの国で系統だった繁殖鳥調査(Breading Bird Survey)が行われていて、そのデータの質・量は目を見張るものがありました。日本のモニタリングを省みると、(1)調査の繰り返し(発見率を考慮したモデリングが可能となる)、(2)対象鳥類や環境を絞らず、無作為に配置したサイトでの調査、(3)国境を越えた調査・解析フレームワーク、の3点が特に重要であると感じました。
自分の研究はと言えば、まだまだこの中で目立つレベルのことはできていないと痛感しました。今回はただ日本から来たというプレミアで目立つことは出来たかもしれませんが、もっと真に「面白い」「これは役に立つ」と思ってもらえるような研究を目指していきたいものです。
今回滞在したカセレスという都市はローマ時代から続く歴史的な都市で、タイムスリップしたかのように感じる旧市街の街並みは世界遺産にも登録されています(行くまで知りませんでしたが…)。地中海性の鳥類を見る場所としても有名な地域で、街のあちこち(学会会場でも!)でシュバシコウやヒメチョウゲンボウの巣を見ることができ、頭上では常にpallied swiftが飛び交い、会場からもcorn buntingやserinの囀りを聞くことができました。
学会会場でシュバシコウが営巣
日程中には近郊に出かける機会もあり、ステップ地帯でlittle bustardやblack-eared wheatear、Spanish sparrow、crested lark、山岳地帯ではblack vulture, griffon vulture, Egyptian vulture, Spanish imperial eagle, black stork, blue rock thrushなどを観察しました。特に大河の脇にそびえたつ急峻な崖で繁殖しているvultureやimperial eagleが、それこそ畳のような翼を広げて飛び交っている様子は異次元の壮大さで、動物園で再現されている縮小スケールの岩山やジュラシックパークの映画しか思い浮かべられなかった自分にとっては、あぁ本当にこんな場所が世界にはあるんだなと実感させられる経験となりました。スペインはすごい国です。
ステップを進む御一行(直後大雨…)
大河の沿岸にそびえ立つ崖
Egyptian vulture
griffon vulture(羽を広げると3m!)
black storkはスペインでも数少ない
インペリアルイーグルが!!
どこどこ!?
最初から最後まで本当に充実した学会で、こういった集まりを介して各国の研究者が諸問題に協力して取り組んでいる様子はやはり日本ではなかなか感じられないもので、勉強になると同時に今後の取り組みに対していい刺激を受けました。次のこの学会は3年後だそうです。その時どんな発表ができるかまだ分かりませんが、ここで知り合った人達に今回よりもさらに進んだ取り組みについて紹介することを目指したいと思っています。