BES

tatsuamano2012-12-20

すっかりとクリスマスムードの中、久しぶりに12月開催に戻ったイギリス生態学会の年次大会に参加してきました。バーミンガム大学での開催です。
イギリス生態学会は恐らくイギリス国内では最大の生態学関連の学会だと思いますが、それほど巨大ではなく、大会は実質2日半の日程です。規模としては日本の生態学会の方が大きいかもしれません。
大会の核となったSteve EllnerによるTansley Lecture: “Rapid Evolution: From Genes to Communities, and Back Again?”と、Johan RockströmによるBES Lecture: “Planetary Stewardship in the Anthropocene: Preserving the Remaining Beauty on Earth for Human Prosperity”はいずれも素晴らしい講演でした。前者では東大の吉田さんによる研究も紹介されていましたし、RockströmはPlanetary Boundariesという概念を考案した研究者で、今回はさらにそこから発展した地球環境のレジリアンスと持続可能性についての壮大なスケールの講演でした。現在の会長がジョージナ・メイス、副会長がサザーランドという影響もあるのかもしれませんが、生態学会で今回のRockströmのような講演が聴けるのは素晴らしいと感じました。
一般講演では、マクロ生態学や生物地理学、保全生物学のセッションを中心に回りました。特にマクロ生態学は、最近イギリス生態学会でもspecial interest groupが設置され、今回の大会から初めて「マクロ生態学」というカテゴリーが設置されたとのことで、相変わらず活発な分野だと感じました。特に今回の大会ではcitizen scienceという単語を聞く機会が多かったように思います。もちろんイギリスでは鳥類のモニタリングはかなり前からcitizen scienceに基づいているのですが、最近になってチョウ・ガ類、テントウムシ、植物など、他の分類群でもcitizen scienceに基づいたデータを使っている研究が増えてきているようです。関連して、”Big Data for Big Ecology”というワークショップも2日連続で行われました。国内の生物多様性情報を包括的に格納しているNational Biodiversity Networkや、データ、スライドなど何でも共有できるようなスペースを提供しているfigshareといった試みが紹介されていました。論文についてはPLoS Oneなどのopen journalが現在どんどん増えていますが、データも今まさに”open”化が進みつつあるのを感じました。
いくつか印象に残った一般講演はあったのですが、特にGavin Thomasによる「全」現生鳥類の系統樹についての発表はインパクトの大きいものでした。この研究はつい最近Natureに掲載されたので目にされた方も多いかもしれません。「この研究は5年前、私がWalter Jetzに話を持ちかけたところから始まりました」という説明もあり、今回の発表に至るまでの労力がよく感じられる発表でした。なぜ「話を持ちかけた」彼が論文の筆頭著者でないのか気になったのですが、直接聞く機会はありませんでした…
私はと言えば、最終日の午前中を使って行われたThematic Topic: New Directions in Phenology at a Macro Scaleで、”Linking phenological changes and range shifts in British plants”と題した発表を行いました。論文の方はなかなか形にならないネタなのですが、今回の発表を前に再解析を行ったり、入念に発表練習したりしたこともあって、うまく発表することができたと思います。時間一杯までしゃべったせいで鬼門の質疑応答時間がなかったのが最大の要因だったかもしれませんが…このセッションを企画したアリー・フィリモアが他に声をかけた研究者の発表も、また一般参加者の発表も興味深いものが多く、全体を通して聴衆も非常に多い充実したセッションだったと思います。このセッションでの基調講演を行ったTim Sparksが3年前に行った講演は、私がフェノロジーの研究を始めるきっかけとなったのですが、その時に彼が紹介していた「ルバーブクランブルを初めて食べた日と気温の関係」というネタのサンプル数が3から6に増えていました。

私の研究も含め、このセッションで発表された研究のいくつかはUK Phenology Networkによるcitizen scienceに基づいたデータを利用していますが、近年投稿されるデータ量が減ってきているらしく、学会後にはこの問題を如何にして解決できるかというミーティングも行われました。新たにできたコネクションは是非共同研究に発展させていければと思っています。
学会には日本人の参加者も想像以上にいました。鹿児島大からキュー植物園に来られていた相場さんや東北大のグループと新たに知り合ったり、イギリスでポスドク・博士課程をされている山中さん、水沼さんといった方とも再会したりして、改めて刺激をもらうことができました。
本大会を終え、イギリス生態学会はいよいよ来年100周年という節目の年を迎えます。8月にロンドンで開催されるINTECOLとの合同大会を中心に、来年は様々なイベントが行われるそうです。INTECOLの発表要旨申し込みの締め切りは3/22です。
なお…
100周年を機にイギリス生態学会学会員増員キャンペーン(?)を行っており、既存の会員が新しい入会者を紹介すれば、生涯会員になれる抽選に(紹介者・被紹介者とも)エントリーされるチャンスが!さらに!もう一人入会者を紹介すればNHBSの20ポンドバウチャー贈呈!
これを機にイギリス生態学会に入りたいという方がいらっしゃいましたら是非私まで!
学会から戻るともう仕事納めでした。今年も多くの方々に大変お世話になりました。皆さまどうぞよいお年をお迎えください。