SCCS2013

この週末、まさかの雪でした。例年ならもっと暖かいのですが…。日本では桜満開とのニュースを聞くと、何とも桜が恋しくなります。

先週には、毎年この季節のケンブリッジで恒例の、Student Conference on Conservation Science の2013年大会が開催されました。昨年はちょうど日本での生態学会と重なっていたので、2009年に参加して以来、4年ぶりの参加です。4年前は初めての参加ということもあって半分参加者、半分運営ボランティアという感じの立場でしたが、今回は100%運営ボランティアの立場として参加し、想像以上の労働量にげっそりとしましたが、また以前とは違った視点からこの学会の意味について見直すことができました。
この学会には世界中、非常に多くの国から保全科学に従事する学生が参加しています。前回同様、50〜60か国というところでしょうか。(恐らく)発表申込時にセレクションがかかっていることもあって、ヨーロッパ諸国と同等にアフリカや中東・アジア諸国からの参加者も目立っていました。ケンブリッジで始まったこの学会は、近年はインドアメリカオーストラリアで開催が始まり、今秋には中国でも開催が予定されています。それだけに、ケンブリッジでの大会にどのあたりの国から参加者があるのだろうかと思っていたのですが、「ヨーロッパに来てみたかったから」とアメリカ大陸やアジアからも多くの学生が参加していたのが印象的でした。
 様々な国からの参加者
この学会は規模も大きくはないため、運営はほぼ全てボランティアに担われています。私の所属するConservation Science Group、Department of ZoologyやGeographyに所属する保全科学に関わる学生やポスドク数十人でしょうか、プレゼンテーションの補佐やポスターの設置から、コーヒー・ティーやランチ・ディナー、パーティーの準備、関連ワークショップの開催、参加者の宿泊に関する世話など、様々なタスクがボランティアに任されています。
私の担当は、オーディオ・ビジュアル補佐とコーヒー・ティー・ランチの準備でした。毎午前・午後に行われるコーヒー・ティーの準備は、デリバリーの会社から派遣された2人を手伝うだけのはずですが、この社員の働きぶりと彼女ら持参の業務用コーヒーメーカーが相変わらずの英国クオリティ…。お湯を沸かしてコーヒーをろ過するだけの仕組みなのですが、なぜか次々に使えなくなっていくコーヒーメーカー…。社員は非常にフレンドリーで気持ちよく手伝えたのですが何とも頼りなく、2日目からはコーヒーをどうやって作ったらいいか私に判断を求めてくる始末…。おかげ様で学会終了時には、この会社に入れば間違いなくのし上がっていく自信があるレベルにまで到達しました。
 コーヒータイムを前に準備完了。後は参加者がやってくるのを待つのみです。
ランチに関しては、毎日のサンドイッチ発注、在庫の管理から当日の準備まで、ドクター論文執筆中の同僚・ホセが責任者となっていたため、いたたまれず私も手伝うことに。毎日の参加者の増減を把握するのが難しく、最終日にはサンドイッチが足りなくなるのではとひやひやしましたが、結果的にはたった2つ余っただけという奇跡的な才能を発揮したホセ(右)でした。

他にも大量のコップに延々とオレンジジュースを注ぐ作業や、大量のグラスに延々とワインを注ぐ作業などをこなし…

それでも結果として、本当にたくさんの参加者に楽しんでもらう様子も垣間見ることができ、報われる思いがしました。
 ピザディナー兼ポスターセッション
 ワインレセプション
ボランティア作業がメインで、あまり学会自体の話は聞けなかったのですが、それでも何度かあった機会には、とても興味深い話も聞くことができました。

自分がプレゼンテーション補佐を行った口頭発表のセッションは、文化と生物多様性保全の関係がテーマとなっていました。例えば、ケニアMijikenda Kayaと呼ばれる聖地は文化的に森林が手つかずの状態で維持されているため、生物多様性保全において重要な役割を果たしているそうです。同様の例として、日本における社寺林も紹介されていました。社寺林が都市における代替生息地として果たす機能についての研究など日本にあるんでしょうか…?なかなか面白そうなトピックだと感じました。
プレナリートークのひとつは、Wildfowl and Wetlands TrustのDebbie Painによる、彼女がこれまでかかわってきた3つの絶滅危惧種保全活動についての発表でした。まず、絶滅したと思われていた矢先、たった20羽がマダガスカルのとある池で再発見されたマダガスカルメジロガモ(Madagascar Pochard)について、残された個体群からの卵採取、現地での人工ふ化・育雛、さらに個体数減少の原因解明など。次に、インド・パキスタンなど南アジアで壊滅的な個体数減少が報告されたハゲワシ類について、家畜に投与されていたジクロフェナクという原因が解明されるまで、その禁止からその後の保全・モニタリング活動など。そして最後に、100-200個体しか生存していないのではないかと考えられているヘラシギについて、シベリアの繁殖地への渡航、卵採取から人工ふ化・育雛・野生復帰という一連のプロジェクトや、黄海の生息地消失・東南アジアでの狩猟という2大脅威を如何にして克服していくのかなど。
彼女の話はどれも、いわゆるカリスマ種の保全活動についてでした。世界中で生物多様性保全に費やすことのできる資金や労力が限られている中、カリスマ種の保全にどれだけそれらを注力すべきかは意見の分かれる点でしょう。WWTやRSPBによるこれらのプロジェクトは大きな成功を収めている好例と言えますが、それによって救うことのできるのはたったの3、4種(とその周辺環境)です。辺境の地にプロジェクトチームを毎年派遣して、現地やイギリスで育雛施設を設立していく労力や資金を、他に回すべきではないかという意見があっても尤もだと思います。わくわくするようなプロジェクトの成功談を聴きながら、そんな考えも頭の中をよぎりました。
が、そんな私の考えは、会場を埋め尽くしていた聴衆の反応によってすぐに打ち消されました。発表終了と同時に挙げられる十数人の手。止むことのない質問の数々。興奮気味に続けられる参加者と発表者による議論。世界中からそこに集まっていた若き保全科学者にとって、彼女の話はまさに自分たちが関わっている問題自体の重要性を再認識し、自分たちが進んでいくべき明るい未来を見せてくれるような、そんな機会となったに違いありません。自分の周りに座っているこの人たちが、今日彼女の話に感銘を受け、帰ったそれぞれの国で自分が関わる問題に改めて誇りをもって取り組み、さらに多くの後進たちを育てていったとすれば、たった一種を絶滅から救ったという成功談だとしても、どれほどの影響力があるのだろうかと想像せずにはいられませんでした。
この学会期間中は、研究の話自体を多く聴くことはできませんでしたが、その代わりに、そんな世界中の保全科学に携わる学生たちが肌で多くのことを学んでいく過程を手伝い、また垣間見ることができて、私にとっても貴重な経験となりました。こんな場面の手助けができるのなら、またコーヒーでも何でも作りましょうというものです。先述のように、SCCSはケンブリッジだけでなく、9月にはインドで、10月にはニューヨーク(要旨提出は4/1締切)、11月には中国で開催される予定です。世界の保全科学を学生の視点から学びたいという方には、是非参加してみていただきたい学会です。