新年度

tatsuamano2013-04-01

新しい年度の始まりですね。年々新年度の新鮮さが失われつつあるかと思いきや、この世界では異動される方も多いうえ、学生さんとも関わりがあるので、やはり4月1日は今でも特別な日というイメージが強いような気がします。
とは言いながらも、こちらではイースターのため本日休みです。気持ち新たに新生活!という雰囲気からは少し遠いかもしれませんね…
今日からではなく3月1日からですが、私も今までの学術振興会の海外特別研究員という立場から、新たにMarie Curie Fellowshipsというポスドク制度にお世話になることとなりました。今後2年間、受け入れ先は現在と変わらずケンブリッジ大学です。
Marie Curie Fellowships欧州委員会によるポスドク制度で、欧州内での異動、非欧州から欧州、欧州から非欧州への異動、といった複数のスキームから構成されており、つまるところは学振のヨーロッパ版という感じでしょうか。
この制度に初めて応募した際には、27ページに渡る応募書類を必死に書いたのですが、残念ながら落選でした。審査結果は5ページある評価書で詳細に説明されていて、Scientific & Technological quality, Transfer of Knowledge, Researcher, Implementation, Impactという5項目ごとに採点とStrengths, Weaknesses, Overall commentsといった評価が記入されています。初回応募時には特にTransfer of Knowledge, Implementationといった研究計画以外の部分のスコアが低く、合格ラインと言われていた87~88点に及ばない82.20点という結果でした。結果を聞いたビルが、「研究以外のところで評価を下げるのは典型的なEUの仕事だ。NERC(英・自然環境研究委員会)のファンドではこんなことはあり得ない!」と怒り心頭だったのですが、こちらのグラントに応募するのが初めてだった私は、そんなものかな…とあまり実感はわきませんでした。
翌年、学振の海外特別研究員を応募した後、Marie Curieにも再度応募することとしました。共同研究者のタマスによると、1年目の評価をもとに修正して2年目で通る人は非常に多いとのことでした。ちなみにこの間に、Newton International Fellowshipsというイギリスでポスドクを行うための制度、Canon Foundation in Europe助成金にも応募しましたが、どちらも駄目でした。が、前者はshortlistまでは残り、自信にもなりました。
2年目の応募でも研究計画はほとんど同じでしたが、前年に評価が低かった項目を特に気を付けて改善した結果、全ての項目で前年の評価を上回り、95.20点で合格することができました。この時にはすでに渡英して海外学振も始めていたため、交渉の結果半年ほどスタートを遅らせてもらい、なるべく海外学振の期間を活かす形で、この3月からスタートするに至ったわけです。
新しい制度の下でのポスドクとなっても、研究の面は何も変わりないのですが、その他の面では少し変化がありました。
まず、大学と正式な雇用契約を結ぶことになりました。資金の提供元は外部ですが、EUから間接経費なども含めて大学にお金が下りて、私には大学から給与が払われるようです。学振からは円払いでしたが、大学からはもちろんポンド払いです。円安が進む昨今では少し得をする気もしますが、そもそもの総額はユーロで決まっていることを考えると…どうなんでしょう?まぁ細かいことは気にしないことにしました。
大学に正式に雇用されるにあたって、改めて学部の事務から新メンバー向けのイベントについてなどのメールが届くようになりました。海外学振の場合は直接個人の口座に振り込まれるため、こちらの大学事務との関わりは入館するためのカードキーやコンピューターサービスへの申請くらいしかありませんでした。立場としては恐らくビジターという扱いで、学部から正式なお知らせなどもらったことはありませんでした。その辺の扱いは手続き時の担当と場面次第だったりもするので、人によって違うのかもしれませんが…。
そんなイベントの一環として開かれた、organigram induction meetingなるものにも先週参加してきました。参加者は、学部の新メンバー9人のうち、3人…。Departmental administratorのジュリアンによる個人講義のような様相です。
その内容はと言えば、学部の組織構造についての説明です。プリントを見て聞いているだけなら楽なのですが、無駄にインタラクティブ…。「学部長の名前は?」「今年は英国の大学にとって特別な年だけど何だかわかる?」など、ちょいちょい質問を挟んできます。どの質問にも回答できず言い淀んでいると、隣のポスドクが全て完璧に答えてくれました。あんた新加入なのにどんだけ組織に詳しいんだ!?
改めて現在所属している動物学部について教えてもらうのは勉強にもなりました。学部に雇用されている研究関係者は約150人。86名の”Chest-funded”スタッフとその他のスタッフ65名に大きく分けられます。”Chest-funded”という聞きなれない用語について、ジュリアンは「ケンブリッジにはChest(引き出し?金庫?)が今でも本当にあって、大学のお金は全てそこに収納されているんだ」と、真顔で説明します。本当だか嘘だか分からないようなこんな小ネタが、この街では次から次へと出てきます。
Chest-funded staffのほとんどはアシスタントですが、残る12人は教授、7人がReader、3人がSenior Lecturer、3人がLecturerです。ちなみに博物館には4人のcuratorが正規職員として雇われています。講師よりも教授の方が多いという構図は珍しいらしく、「一度講師として雇われると、誰もがそのままここに残りたがる」結果とのことでした。
一方、65名のその他のスタッフは研究グラントで雇われており、すなわち任期付きの雇用ということになります。そのうち50名強は各研究室でPIに雇われているresearch associateやassistantですが、残る10~20名がindependent fellowと呼ばれる独立したポスドクで、Marie Curieの私もここに含まれるとのことでした。一通り聞いて、うんやっぱり海外学振の立場はあまり認識されていない、と感じました。海外学振だけでなく、短期のビジターやサバティカルで滞在している人などもたくさんいますので、大学院生も含めて実際の研究従事者は150人よりもずっと多いでしょう。
その他、大学の予算などについても聞きましたが、年間の総予算は3300億ぐらい?東大は2300億ぐらいのようですから、学生数の違いを考えればほとんど変わらない気もします。もっとも31あるカレッジの収入はこれらに含まれていません。カレッジは法的には大学とは別組織、というのも初耳でした。
と、そんなこんなで私にとっても少しだけ新しい年度の始まりとなりました。新年度から新たな環境での生活、また新たな課題をスタートされる方も多いと思います。皆さまのご活躍をお祈りしております。