マックナリー

マックナリーという研究者の名前を初めて目にしたのは、hierarchical partitioningという統計手法を初めて勉強したときのことでした(6年以上も前のことです…)。
当時はこの手法自体にはとても衝撃を受けたのですが、著者自体には特段注意を払わず、Mac Nallyと苗字が分かれているのは珍しいなと思ったくらいでした。
それが、ここのところ共同研究を行っているオーストラリアの研究者から、「準備している論文原稿を(同じ大学の)ラルフ・マックナリーに見てもらったんだけど」というメールが届いたのです。そのコメントは、posterior predictive checkやbayesian model averagingといったようなベイズの匂いがプンプンするものでした。
原稿を人に見てもらう際、ざっと表面だけ見られて、どうしてその解析やアプローチをとったのかなどの思考の過程までは理解してもらえないまま、根本的なコメントをもらうことが時々あります。そういった場合の相手は大抵、知識豊富で、でも忙しい人であることが多いのですが、今回のコメントもそんな印象を受けました。
そこで少し困ったな…と思っていた翌日、なんとそのマックナリーが研究室のセミナーに現れたのです。共同研究のために数カ月ケンブリッジに滞在するとのことでしたが、タイミングのよさにさすがに驚きました。こんな偶然はなかなかありません。直接話すのが一番、と早速話を聞いてもらえることになったのですが…
いざ話を始めると、英語が全く分からない…
ベイズの話をしているのですが、支持しているのか批判しているのかも分からない始末です。これも時々あるのですが、ネイティブの中にも、どうしても特別英語が分かりにくい人というのがどうしてもいます。そのうち慣れてくる人もいれば、いつまで経ってもまるで分からない人もいるのですが、彼の場合はどちらかといえば後者で、滑舌なのか発音なのか、30分ほどみっちりと相談にのってくれたのですが、しっかり理解できたのは10分の1くらいでしょうか。数年こちらで生活していて、身に付いたのは言っていることが分からなくても30分会話を続ける度胸だけだったんだろうかと、若干自分に苦笑しました。
それでも自分の聞きたいことは何とか確認し、今後の方針も決まりました。その後いくつか参考論文も送ってくれたため、お礼と自己紹介も兼ねて、ベイズモデルを使ったいくつかの自分の論文も送りました。
その日の夕方、ちょうど帰宅しようとする彼にもう一度出会いました。にこやかに先ほど受け取った論文の感想を伝えてくれます。
「ちょっと見たけどなかなかいい論文だったよ。ところで、あれだけベイズ使ってるのに何で未だに頻度主義を完全に捨てないの?」
この時ばかりは何とか英語は分かったものの、自分の半端な姿勢に対するその鋭すぎる指摘に、文字通りひきつった笑顔を返すことしかできませんでした。
ちなみに彼のGoogle scholarプロファイルを見ると、”Mc Nally or McNally”と書かれていました。やっぱりみんな迷うんでしょうね。言うまでもなく大変優秀且つ親切な研究者です。念のため。