研究室引っ越し

ようやくフェローシップへの応募を終えました。少しだけ締め切りのずれた2つの応募があったのですが、最初に提出した方がはるかに短いプロポーザルでよかったため、一旦完成させたプロポーザルを二つ目にあまり活かせないという苦しい結果に…。締め切りを直前にして出てこない文章を何とかひねり出すという経験は久しぶりでした。ただお蔭でプロポーザル的な売り込み文章を書くことにだいぶ慣れたような気もします。
ビルや他の共同研究者にサポートを確約する文章や推薦状を書いてもらう機会も多かったのですが、かなり綿密に文章を練ってくれていたのが印象的でした。これらの文章は思っていた以上に選考上重要なのかもしれないと感じる一方、それを準備してもらうのには想像以上の労力が必要そうで、多忙な人達にこれらを依頼するのは心苦しいながらいい経験となりました。何事も依頼は早く、という単純な基本はやはり重要です。
いずれにせよ、これでまた研究に労力を集中することができるという解放感に浸っております。
そんなこんなでバタバタとしている間に、なんと研究室を引っ越しました。
動物学部では、2015年(?)までに現在の博物館が入っている建物を全面改修することで、大学や周囲の関係機関から保全科学の研究者が文字通り一堂に会する、Conservation Campusの完成を予定しています。これは元々「世界で二番目に多い」と言われているケンブリッジにある保全関係の研究機関間のコミュニケーションを、さらに促進させようという壮大な計画です。
今回の引っ越しは本格的な工事開始を前に、この計画の土台となる建物に現在入っている研究室や博物館関係者、さらにConservation Campusへの入居を予定している保全関係の研究室が一時的に別の建物に移動するという大がかりなものです。が、私の所属する研究室の引っ越しは予想外にあっけない感じで特に問題もなく半日ほどで終了しました。

1週間ほど前に各自の荷物を入れて運んでもらうためのハードボックスが届けられました。一通り入ってみて大きさを確認(笑)

当日10分前くらいまでに各自荷物を収納します。ほとんどの人は個人的な荷物はあまり多くないため、一人当たりに写真中央の赤いボックスをひとつで十分収まる程度でした。研究室にあった共用の荷物もボックス2〜3個分ぐらいだったでしょうか。イスやキャビネットも含め、テープに行先を張っておけば業者が運んでくれます。ちなみに、コンピューターは梱包皆無でのボックスへの直入れ!色の違うボックスが指定されたため、一応気を付けて持って行ってくれていたとは思うのですが…。実際特に問題はなかったようでした。

荷物が運び出され空になった研究室。ビルがケンブリッジに移ってから約6年という部屋の歴史はあっという間にゼロとなりました。メンバーの間に感慨らしきものはあまりなく、ビルに至っては当日不在で、代わりに業者が部屋の書籍を片っ端から無造作に詰め込んでいました。
各自残された荷物をもって敷地内にある引っ越し先へ徒歩で移動。程なくして業者がボックスやキャビネットを運び入れてくれました。

過去に所属を移る際に、自分の研究拠点の引っ越しというのは何度か経験しましたが、個人的にも今回が最も荷物が少なく簡単でした。ちょうどこちらに来てから論文を読む際にプリントアウトをしなくなったのが大きいのかなと思います。

しばらくしてイスなどその他の荷物も届き、結局2時間後くらいには仕事を再開することができました。
新しい建物では3人部屋の窓際となり、なかなか快適な環境です。ただこれまで全員が同じ部屋だったサザーランドグループは、隣同士ながら3つの部屋に分かれることとなり、少しコミュニケーションの形が変わっていくのでないかという感じもしています。一方で今回の引っ越しによって、今まで2階と4階に離れていたサザーランドグループとバームフォード・グリーングループが同じフロアに入ることとなりました。こちらでもこれによって今までなかった交流が生まれるなど、人の配置やそれに伴う動線の変化によってコミュニケーションが大きく変わりうることを実感しました。最終的に多くの保全科学者を新しい建物に集めることで得られる効果もよく分かるような気がします。

新しい研究室は建物の5階となったため、廊下の窓からはケンブリッジの象徴、キングスカレッジを望むこともできます。

引っ越し後に知ったのですが、この建物には以前、キャベンディッシュ研究所という有名な物理学の研究所が入っており、1953年、まさにここでワトソンとクリックによってDNAの構造が決定されたそうです。ちょうど60年前、この建物の中で二人がお茶を飲みながら議論したり、あの論文を書いたりしていたのかと想像してみたりしています。キャベンディッシュ研究所はこれまで29人(!!)のノーベル賞受賞者を輩出しているそうで、ここにいる間に少しでもその恩恵(?)を被りたいものです。
そんなこんなで私たちの研究室の引っ越しはさして大ごとではありませんでしたが、博物館の収蔵品整理が相当の「大ごと」であることは想像に難くありません。

上からのぞいただけでも大変そうな雰囲気が…。白く梱包されているのはつるされて展示されていたイルカなどの骨格標本です。ホームページによるとボランティアを募って梱包作業を進めているそうです。
 
博物館の上に展示されていたナガスクジラ骨格標本も解体されつつあります。26年間にわたってこの場所に展示されていたというこのクジラは、まさに動物学部のシンボル的な存在でしたが、新しい建物で再展示されるまではしばらく見納めとなります。どこに行ったのかと思っていたところ、私たちの新しい研究室と同じ建物の一角にひっそりと収納されていました。

これからいよいよ本格的に工事が進んでいくConservation Campusは、約2年後の完成が見込まれています。その時に自分がここにいるのか今はまだ分からないのですが、できることならばこの目でその時どんなことが起こるのかを見てみたいなと思っています。