パートIIプロジェクト

11月を目前にして、いよいよ本格的な冬の冷たい空気が感じられるようになってきました。日中の天気は比較的いいのですが、先週末を境に冬時間に戻ったため、夕方の暗くなり方が半端ではありません。帰宅時に暗い日が続くと、もう今年も終わりだな…と思ってしまいます。

10月から新学期が始まり、しばらくざわついていた街の雰囲気が落ち着く今ごろは、1年の間でも静かな時期と言えるかもしれません。
普段研究室で時間を過ごしていると、日本の大学と同様、学部生と関わる機会というのはほとんどありません。大学院生にとって学生生活の中心となっているカレッジでも、学部生との関わりはほとんどないそうです。しかしながら、そんなポスドクや院生にも学部生と関わる機会が2つほどあります。ひとつはsupervisionと呼ばれる個別面談システムです。1〜4人ほどのグループに対してひとりのsupervisorがつき、毎週講義に関連したよもやま話をしたり、読み物をしたり、エッセイを書いたり、議論したりする、というものです。例えば保全科学の講義がある際には、研究室のポスドクや院生から何人かが担当するのですが、延々と話をしなければならないため私には敷居が高く、その辺も考慮されてか大抵英語ネイティブの院生が順繰りにやっていくという感じで回っています。
そしてもうひとつ学部生と関わる機会が、パートIIプロジェクトと呼ばれる小規模な研究プロジェクトです。パートII学生と呼ばれる最終年度の3年生が、各研究室から提案されたテーマを選び、担当者の指導の下、プロジェクトを進めてレポートにまとめるというものです。3年生は、10月頭から12月頭のMichaelmas term、1月中旬から3月中旬までのLent termの2学期で、1つのtwo-term projectか、2つのone-term projectを終えることが義務付けられています。
今学期はちょっとしたことから、このパートIIプロジェクトで学部生の担当をすることになりました。きっかけは、外部の研究者と考えていた共同研究を学部生にやってもらおうというものでした。このパートIIプロジェクトは、大学内外の研究者にとって手間暇のかかるちょっとしたアイディアの研究を進める機会にもなっているようです。実際これまでの統計によれば、20%ほどのプロジェクトは1年以内に論文として出版されているそうです。アンドリュー・バームフォードもこれまでこの論文この論文など、何本もパートIIプロジェクトから論文を出していると話してくれました。
夏休み期間中に2つの短いプロポーザルを提出すると、学期の始まりと共に、興味をもった学生からぼちぼちと連絡が入り始めました。プロジェクトの希望を提出するまでに、説明を聞きに研究室を訪ねてくる学生もいます。学生によってテンションも状況も様々です。様子や顔色を伺うような雰囲気の学生もいれば、「絶対にこのプロジェクトをやりたいんです!」と意気込む学生、「本当は第一希望のプロジェクトは他にあって、このプロジェクトはできれば次の学期にやりたいんですが…」と正直すぎる事情を説明する学生などもいます。他との重複によっては希望するプロジェクトに配属されない可能性もあるため、「他にこのプロジェクトを希望している学生を教えてくれれば、皆で協力してできないか打診してみますよ。」と妙な策略を練ろうとする輩まで…。よく言えばフレキシブル、悪く言えば何でもありの様相です。結局、学生の訪問は希望提出締め切りの朝まで続きました。
その後しばらくして、学部事務から学生の割り振りについて連絡が来ました。提案した二つのプロジェクトにそれぞれ二人ずつ、ペアで見てもらえないかと…。データを協力して集めて、同じ解析をして、同じ結果を使ってそれぞれ別々にレポートを書けばいいのだそうです。ビルと相談して、いやいやそれは無理でしょうと返事をしたのですが、全体のプロジェクト数が少なかったこともあるようで、先方もなかなか引きません。そうこうしているうちに、割り当てられた学生のひとりがペアでは嫌だと言い出す始末…。結局、急きょもう一つ似たテーマを考えることで、結局計4人の学生の配属が決まりました。
なにせ今学期はクリスマス前まで、もうあと1か月強しかありません。早速学生一人ずつと会い、それぞれ話し合って方針を伝え、作業を各自で進めてもらうこととしました。学期中の学部生は講義や宿題(?)が多く、下手なポスドクより遥かに過密なスケジュールをこなしているようです。そもそも面会のスケジュールを合わせるのも大変で、作業はちょっとした空き時間や夜間、週末に進めると多くの学生が話していたのも印象的でした。
こうやって何人かの学部生と話す機会をもったのですが、どの学生からも例外なく非常に聡明そうな印象を受けました。物事の理解や飲み込みが非常に速く、それでいて大量の作業もまるで厭いません。その一方で、学生によってはその優秀さと表裏して、要領の良さのようなものが見え隠れする感じもしています。四者四様のスタートを切った彼ら彼女らが、今後どのような進展を見せてくれるのか、プロジェクトの成果と共に楽しみにしています。