ジクロフェナク禁止以降のエジプトハゲワシ(Egyptian vulture)とミミハゲワシ(Red-headed vulture)の運命

Galligan, T.H., Amano, T., Prakash, V.M., Kulkarni, M., Shringarpure, R., Prakash, N., Ranade, S., Green, R.E. and Cuthbert, R.J. (in press) Have population declines in Egyptian vulture and red-headed vulture in India slowed since the 2006 ban on veterinary diclofenac? Bird Conservation International.
1990年台からインドやネパール、パキスタンなどの南アジアで、ハゲワシ類の壊滅的な減少が観察されました。例えば、ベンガルハゲワシ(White-backed vulture Gyps bengalensis)では99.9%以上、インドハゲワシ(Long-billed vulture Gyps indicus)と Slender-billed vulture(Gyps tenuirostris)では96.8%の減少が(Prakash et al. 2007)、同様にエジプトハゲワシ(Egyptian vulture Neophron percnopterus)では80%、ミミハゲワシ(Red-headed vulture Sarcogyps calvus)でも91%の減少が報告されました(Cuthbert et al. 2006)。これらの報告もあって、この4種ともが現在ではIUCNによって Critically Endangered もしくは Endangered に指定されています。
これらの急激な個体数減少は、家畜に投与されていたジクロフェナクという薬品が遺棄された家畜の死骸を採食する際にハゲワシ類に取り込まれることが原因であるということが、Gyps属を対象に明らかにされました(Oaks et al. 2004)。2006年にこの薬品が実質禁止となったことで、その後 Gyps属のハゲワシ3種では減少が緩和、もしくは増加に転換したことが報告されました(Prakash et al. 2012)。
一方、同様に減少が観察されたエジプトハゲワシとミミハゲワシでは、ジクロフェナクの悪影響は生理学的にはまだ証明されていません。しかしながら、Gyps属との系統的な近さ、採食ニッチも重なることから、これらの種の減少もジクロフェナクが原因であると推測されています。この論文では、2006年の論文以降に行われたセンサスデータを用いて、この2種の個体数変化がジクロフェナクの禁止以降どのような傾向を示しているのか検証を行いました。解析の結果、エジプトハゲワシとミミハゲワシの両種においても、Gyps属の種と同様に2006年のジクロフェナク禁止以降、個体数の減少が緩和、もしくは増加に転換しているということが明らかとなりました。
一連のハゲワシ類のプロジェクトはRSPBが中心となって現地の研究者と共同して行われていますが、この論文は解析上の問題を指摘された他の雑誌から却下されたため、当研究室の教授も兼任しているリース・グリーンにその時点で声をかけてもらって参加することとなりました。筆頭著者であるRSPBのトビーと直接会って議論することができたのも、RSPBのような保全・研究機関が近くにあることの利点と言えるかもしれません。ジクロフェナクによるハゲワシ類の研究と保全については昨年のSCCSで詳しく話を聞き、種の減少過程解明から保全政策への貢献まで、科学の果たす役割に感銘を受けていたため、このような形で自分も少しでも貢献することができ嬉しく思っています。
ジクロフェナクについては、ヨーロッパでエジプトハゲワシやGyps属のシロエリハゲワシ(Griffon vulture Gyps fulvus)が生息するスペインやイタリアで近年認可されていることが先月大きな話題となりました。科学と政策を効果的にリンクさせることはヨーロッパの保全科学においても最も重要な課題として認知されています。その好例とも言えるジクロフェナクとハゲワシ類の問題については、今後も目が離せません。

エジプトハゲワシ(スペイン・カセレス

乱舞するシロエリハゲワシとエジプトハゲワシ(同上)