気候変動は主に生物間相互作用の改変を介して種に影響を及ぼす

Ockendon, N., Baker, D.J., Carr, J.A., White, E., Almond, R.E.A., Amano, T., Bertram, E., Bradbury, R.B., Bradley, C., Butchart, S.H.M., Doswald, N., Foden, W., Gill, D.J.C., Green, R.E., Sutherland, W.J., Tanner, E.V.J. and Pearce-Higgins, J.W. (in press) Mechanisms underpinning climatic impacts on natural populations: altered species interactions are more important than direct effects. Global Change Biology
気候の変化が生物種の分布や個体群動態に影響を及ぼしていることは既によく知られています。しかしながら、この影響がどのようなプロセスを介しているのか、統一的な理解はあまり進んでいません。この研究では、約150の研究結果をレビュー・メタ解析することにより、気候の変化は、当該種への直接の影響よりも、その種が関わる生物間相互作用を改変することによって種へ影響を及ぼす場合が多い、ということが明らかになりました。
例えばホッキョクギツネは、温暖化に伴うレミング(餌)の個体数減少やアカギツネの分布拡大によって大きな影響を受けています(Hersteinsson et al. 2009)。イギリスの北部・高地で繁殖しているヨーロッパムナグロの個体群は、餌となるガガンボへの影響を介して、夏季気温の上昇に影響を受けています(Pearce-Higgins et al. 2010)。
この傾向が種の栄養段階によって大きく異なることも明らかになりました。生産者では気温や水分量など、非生物的要因からの直接的なストレスが影響を及ぼす主なプロセスとなっている一方、第一次消費者では非生物的要因と生物的要因による影響が半々、さらに上位の消費者ではほとんどが生物的要因を介した影響となっていました。
今回の研究で重要性が明らかとなった生物間相互作用を介した気候変動の影響というのは、当然のことながらより複雑なプロセスであるため、研究面でも保全対策の面でもこれまでかけられてきた労力は十分であるとは言えません。今後はより注目が必要な分野であると言えるでしょう。
この論文は、Cambridge Conservation Initiative が提供しているグラントが基盤となった研究成果です。このグラントは、イニシアティブに参加している機関による共同研究が対象で、今回はBTOのジェームス・ピアース−ヒギンスが中心となり、IUCN, UNEP-WCMC, FFI, BirdLife, RSPB, そしてケンブリッジ大などCCI内の多くの研究者で構成された共同プロジェクトとして行われました。グラントを基に研究者が集まり、問題設定からレビュー、メタ解析、結果の議論、そして論文化、と短期間で研究を完成させるという流れは、いわゆる欧米の研究者が得意とする形だと感じます。その一員として一連のプロセスを経験できたことは大きな収穫でした。

ヨーロッパムナグロの群れ(Freiston shore, UK)