国際学会

4年に一度のInternational Ornithological Congress(IOC)が、いよいよ1週間後から東京で開かれます。4年以上前から日本鳥学会を中心とした多くの方々が費やしてきた努力が結集される大会で、大変楽しみにしています。私もChris Elphick氏と企画している “Rice fields as a model system for studying bird ecology and conservation” と題したシンポジウムで、鳥類と環境の異質性の関係について発表を行う予定です。

国際学会は通常それほど頻繁に参加できるものではありませんので、研究者としてやはり貴重な機会です。私にとっても日本での国際学会というのはEAFESを除けば初めてでしょうか。私がいつも国際学会に参加してよかったなと思えることのひとつは、世界中の研究者と生身で会えるという経験です。これは必ずしも実際に会話したという経験だけではありませんし、対象も著名な研究者だけとは限りません。むしろ自分と同じ研究分野に携わっている多くの研究者と同じ空間を共有した、という感覚かもしれません。発表内容自体から学ぶことももちろん多いのですが、特にIOCのような大きな国際学会でいつも強く印象に残るのは、これだけ多くの人が世界中でひとつの研究分野に情熱を注いでいるんだという実感です。これだけの情熱や労力が注がれていれば、これからもっと多くの面白い事実が分かって、世間にも伝わって、そして多くの重要な問題が解決されていくのではないだろうかと、科学の力を改めて信じられるような気持ちになれることが、私にとって国際学会の大きな魅力のひとつだと思います。

さらに、著名な研究者であれ、同世代の全く知らなかった研究者であれ、ひとりひとりの発表を聞いていくと、世界には自分では想像すらしていなかったような課題を研究している人もいれば、自分と同じ課題を想像すらできないような深さまで掘り下げているような人もいるということを、しばしば思い知らされます。そんな国際学会での経験は、何より自分の研究のモチベーションにつながり、今後の方向性を考えるための貴重な機会にもなってきました。

一方でそんな機会を前にして、何をすればいいのかというのは常に悩ましいところです。学会ではネットワーキングが重要という点に異論はありませんが、個人的にはやはりまず、自分の英語での発表準備に集中することを心がけています。こちらに来て英語で発表する機会が増えるようになってから、発表準備における英語の準備の大切さを益々実感するようになりました。研究の発表自体はさすがにもうある程度、どうすれば分かりやすくできるかなどは分かっているつもりです。しかし、どんなに研究内容が面白くても、発表資料自体はうまく作れたとしても、英語で伝えるという段階でうまくいかないという経験はとても悔しく残念なことです。そんな経験もあって、発表資料作りなど通常の発表準備とそれを英語で伝えるための準備は、どちらも同等に重要、むしろ前者には慣れているため後者の方がより重要であると考えるようになりました。

もちろん英語の準備というのはなかなか一筋縄ではいかないものですが、やはり最も大切なことは相手に伝えようという意識だと感じています。英語発表をする理由は、何かの課題や試験のためではありません。一番の目的は研究内容を多くの人に伝えることであり、実際に自分の発表を聴きに来てくれる人のほとんどは、本当に自分の英語のセリフとスライドだけを頼りに、研究内容を理解しようとしてくれています。それに応えるためには発表を形式的に英語にするのではなく、研究内容を英語で分かりやすく伝えるためにできることを考えるのが重要だと思っています。例えば、できる限り平易な単語や言い回しを選ぶ、セリフを読まなくて済むようになるまで練習する、発表中は過剰に発音に気を取られるよりもはっきりと話すよう努める、自分の研究の面白さを心から信じて伝えようとする、最後まで諦めず語りかける等々、ひとつひとつは些細なことではありますが、こういった準備や意識づけを少しでも多くできた時の方が、観衆に内容がしっかり伝わったという実感を持てるというのも事実です。

英語ネイティブの研究者を見ていると、母語が英語だったというだけで得だなと思うことは確かにあります。ただ一方で、英語を介して世界の様々な人とコミュニケーションを図れた時の嬉しさや充実感というものは、非ネイティブであるからこそ味わえるものだとも感じます。世界における日本の地理的な位置が、幅広い国際経験をする際の障壁になっていると感じることはしばしばありますが、その点日本で開催される国際学会は相手の方からやってきてくれるという絶好の機会です。今回のIOCに参加を予定されている方は是非、4年に1度のこの大きな国際学会、いい準備をして、自信をもって精一杯発表して、存分に楽しみましょう。